< 16人の緊急提言 >


実はそのまま見過ごすというのもだんだん出来なくなってきまして
特に本当にきちっとした体制が出来ているのかっていうことがございます。

実はこの炉は、お手元の資料に沿ってご説明させていただきますと
現在も放射能が少しずつ環境に出ているという状況は変わりませんし
それから私ども原子力をやってきたシニアとして一番心配していることは
炉心が当初からかなり溶けていたということであります。

それで溶けていた炉心ですから、未だに相当の熱を出しています。
それが時間と共に少しずつ圧力容器のパウンダリーを破っていくことによって
さらに格納容器という放射能閉じ込め機能を破ってしまうと
大変な量の放射能が外に出る恐れがあるということをいま大変懸念しております。

それから水素がずっと出続けております。
当初はジルコニウム−水反応で大量の水素が出るのですが
(燃料棒の被覆ジルコニウムが溶融し水と反応して水素が発生)
それが終ったとしてもその後放射線分解によって水素は絶えず出てきます。
そういったものがまたどこかに溜まると爆発するという
すでに何回か水素爆発の威力を皆さん目の当たりにしているので
お分かりかと思いますけれども
大変そういうことでいわゆる放射能の閉じ込め機能であります
格納容器等に大きな破壊がもたされているということを心配して参りました。

で、こう言うことを考えますと
できるだけ速やかに原子炉を冷温停止に持っていくということがまず第一に必要です。
それから使用済み燃料プールについても問題がありまして
これは水位を確保できているんで今のところその水をきちっと燃料よりも
あの、水没するような状況においておけば当面は大丈夫かと思いますけれども
そのことについては十分注意していかなければならないということであります。

実際にはいろいろ現場では努力されていると思いますが
いろんな問題が、トラブルが起こってまいりまして
いわゆる本来の目標であります電源を回復して連続冷却システムを回復させるという
そのことによってようやくいろんなことが冷温停止状態に持ってくるということに
なりますけれどもその作業がどんどん遅れてきているという状況にあります。

で、もう一方は15日に大きな水素爆発等によって
環境にかなりの量の放射能が出ています。
現時点では一般住民の健康に影響が及ぶというレベルではないとは言いましても
既に相当数の国民が非難を余儀なくされているとか
いろんな意味で首府圏まで水の汚染があって
大変社会的な活動にも大きな不安と影響を与えているというところでありまして
これについても特に避難住民に対しての対策として
放射線、今後復帰するというシナリオもいま見えてないわけですけれども
こういったことも、放射線、放射能対策の検討を
急いでやるべきであるという風に私どもは考えています。

今の状況は私どもの認識としてはかなり深刻であるという風に思っています。

国・地方自治体・行政庁、それから原子力安全委員会・研究開発機関というのが
総力を集めた一元化した体制ができるわけです。総理の元に。
是非そういう形を作っていただきたいということであります。

原子力の平和利用を進めて、まさかこういう事態
これほど国民に迷惑をかけるような事態は予想してない。
結果的にこういうことになっているということについては
やっぱり原子力を進めてきた人間としてやはりある種の
その、やっぱり国民に謝る
謝らなくてはいけないような気持ちはみんな持っていると思います。
そのことは今回のシニア側も余計なことを言わなくてもいい年齢なんですけども
黙っていられないと、とにかく早くこの状況を抜け出して頂きたい
という思いでこれをまとめたということですので
そういう、みんな、たぶん共通、具体的にどうだっていうことではなくて
気持ちの底にそこがあるということかと思います。

(田中 俊一)



< 福島原発事故についての緊急提言 >


はじめに、原子力の平和利用を先頭だって進めて来た者にとって
今回の事故を極めて遺憾に思うと同時に国民に深く陳謝致します。
私達は、事故の発生当初から速やかな事故の終息を願いつつ
事故の推移を固唾をのんで見守って来た。
しかし、事態は次々と悪化し
今日に至るも事故を終息させる見通しが得られていない状況である。
既に、各原子炉や使用済み燃料プールの燃料多くは
破損あるいは溶融し、燃料内の膨大な放射性物質は
圧力容器や格納容器内に拡散・分布し格納容器に移り
さらに格納容器の放射能の閉じ込め機能を破壊することや
圧力容器内で生成された大量の水素ガスの火炎・爆発による
格納容器の破壊などによる広範で深刻な放射能汚染の可能性を
排除できないことである。

こうした深刻な事態を回避するには
一刻も早く電源と冷却システムを回復させ
原子炉や使用済み燃料プールを継続して冷却する機能を回復させることが
唯一の方法である。
現場は、このために必死の努力を継続しているものと承知しているが
極めて高い放射線量による過酷な環境が障害になって
復旧作業が遅れ、現場作業者の被曝線量の増加をもたらしている。
こうした中で、度重なる水素爆発、使用済み燃料プールの水位低下
相次ぐ火災、作業者の被曝事故
極めて高い放射能レベルのもつ冷却水の大量の漏洩
放射能分析データの誤りなど、次々と様々な障害が起こり
本格的な冷却システムの回復の見通しが立たない状況にある。
一方、環境に広く放出された放射能は
現時点で一般住民の健康に影響が及ぶレベルではないとは言え
既に国民生活や社会活動に大きな不安と影響を与えている。
さらに、事故の終息については全く見通しがないとはいえ
住民避難に対する対策は極めて重要な課題であり
復帰も含めた放射線・放射能対策の検討も急ぐ必要がある。

福島原発事故は極めて深刻な状況にある。
更なる大量の放射能放出があれば避難地域にとどまらず
さらに広範な地域での生活が困難になるとも予測され
一東京電力だけの事故ではなく
既に国家的な事件というべき事態に直面している。
当面なすべきことは
原子炉及び使用済み燃料プール内の燃料の冷却状況を安定させ
内部に蓄積されている大量の放射能を閉じ込めることであり
また、サイト内に漏出した放射能塵や高レベルの放射能水が
環境に放散することを極力抑えることである。
これを達成することは極めて困難な仕事であるが
これを達成できなければ事故の終息は覚束ない。
さらに、原子炉内の核燃料、放射能の後始末は
極めて困難で、かつ極めて長期の取り組みとなることから
当面の危機を乗り越えた後は
継続的な放射能の漏洩を防ぐための密閉管理が必要となる。
ただし、この場合でも、原子炉内からは放射線分解によって水素ガスが出続けるので
万が一にも水素爆発を起さない手立てが必要である。

事態をこれ以上悪化させずに、当面の難局を乗り切り
長期的に危機を増大させないためには
原子力安全委員会、原子力安全・保安院、関係省庁に加えて
日本原子力研究開発機構、放射線医学総合研究所
産業界、大学等を終結し、我が国が持つ専門的英知と経験を組織的
機動的に活用しつつ、総合的かつ戦略的な取り組みが必須である。
私達は、国を挙げた福島原発事故に対処する強力な体制を緊急に
構築することを強く政府に求めるものである。

(平成23年3月31日)



青木 芳朗
(元原子力安全委員)
石野 栞
(東京大学名誉教授)
木村 逸郎
(京都大学名誉教授)
斎藤 伸三
(元原子力委員長代理・元日本原子力学会会長)
佐藤 一男
(元原子力安全委員長)
柴田 徳思
(学術会議連携会員)
住田 健二
(元原子力安全委員会委員長代理)
関本 博
(東京工業大学名誉教授)
田中 俊一
(前原子力委員会委員長代理)
長瀬 重信
(元放射線影響研究所理事長)
永宮 正治
(学術会議会員・日本物理学会会長)
成合 英樹
(元日本原子力学会会長)
広瀬 崇子
(前原子力委員)
松浦 祥次郎
(元原子力安全委員長)
松原 純子
(元原子力安全委員会委員長代理)
諸葛 宗男
(東京大学公共政策大学院特任教授)




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